第4回「加齢とストレス」

伸び続けていた平均寿命もそろそろ限界という説もあります。生きている限りストレスとは縁が切れません。長寿化とともにライフスタイルも変化し、それとともにストレスも多様化して増えていくのでしょうか。でも若返りたいということもストレスです。

 

1 「アンチエイジング」というストレス

 

 寿命が延びた分、いつまでも若々しい人が増えているようです。エイジレスの時代、実年齢に関係なく生きるというのは、年齢を無視して生きるということではありません。時間の流れに逆らって無理に若さを維持しようというのはストレスです。『「若作りうつ」社会』の著者である熊代亨氏は、現代人は歳の取り方が分からなくなったのではないかと指摘しています。

 日々新たなり。いろいろなことに取り組みながら年齢を重ね、経験を蓄積していく。歳を重ねることを味わう力を失ってしまうと、いつも拒否的で楽しさも忘れ、時間の流れにあらがうことで疲れてしまいます。確かに健康でいつも若々しくいたいというのは、憧れのひとつでしょう。でも、今こうして迎えた今日という日は、これまでとは違うのではありませんか。同じように毎日を繰り返していると言いながら、間違いなく時間は流れ、いつも新たな瞬間をいまとして生きているのです。

2 「プロダクティブ・エイジング」

 

 加齢をつくり出す?歳を重ねることはクリエイティブなことなのです。若さにはないのが、これまで蓄積してきた経験やつながりといった資源です。その資源を生かさないのはもったいないことです。年齢による違いや性別といった特徴はそれまで身につけてきたレシピです。それを賢く有効活用する方向で考えてみるとどうでしょう。なぜ、若い人と同じように働かなければならないのか、なぜ男社会に女性が合せなければならないのか。これまでの固定観念や偏った価値観のなかで生活していくことがストレスをどんどん大きなものとしてきたのではないでしょうか。

 

 誤解しないでください。公平とか平等ということを否定しているのではありません。自分の資源に気づいてそれを生かし、可能性を広げていくことが、長寿社会のストレス対処になるのではないでしょうか。状況が変化し、その関わり方も絶えず変化する中で、どのようにふるまうか選択と適応がくり返される過程がキャリア形成です。ストレス社会を生きるためのキャリアの工夫です。

3 「思うようにいかない」

 

 これはチャンスです。ヘックハウゼンは、生涯発達理論の中で加齢とともにコントロールの仕方が変化することを述べています。彼女は、環境や自分をコントロールしようとする努力こそ、人々のもつ基本的な動機づけだと言います。「なんかうまくいかないぞ」と感じたら、ちょっと「工夫してみようか」ということです。それまでのやり方でうまくいかなかったら工夫をするのが発達です。今までと同じではなく、時間をかけてみるとか、誰かに聞いてみるとか、この際だから別なやり方を試してみるとか、などという場合もあるでしょう。

 ユングは、中年期を「人生の正午」と呼びました。それまでとは影のできる方向が変わるからです。ついでに言えば、正午は太陽が真上にくるので影は足元にしかできません。自分の影を意識しなくなるのが中年期なのかもしれませんね。特に男性は自分を見ようとはしません。「これでいいのだろうか」などと、自分を内省するときはむしろ危険なのかもしれません。

 グルドという研究者は、本当の意味で大人になるのは中年期以降だとしています。そこでは「変容」、つまりトランスフォームすることが特徴であるとしています。子どもが、変身遊びを楽しむように中年以降も生活の場面ごとに変身する楽しさを味わってみませんか。高齢者の皆さんはもっと変身を楽しんでみてもいいのかもしれませんね。中年期以降は、しがらみや責任など、つらいこともたくさんあります。そのつらさを味わいながらも、楽しみや喜びを見出す感情の豊かさを失ってはいけません。好奇心や面白がる遊び心を大切にしてみませんか。

最後に

 

 過去を大切にするということと、悔んで落ち込むこととは違います。悪いストレスを生み出すような過去なら、未来への不安をもつ方が積極的ではないでしょうか。でも立ち止まれば、不安に押しつぶされます。いつも挑戦する意欲が大切です。大それたことではなくていいのです。その日、新しいことを学んでみよう、これまで気づかなかったことに気づいてみよう。前向きの時間の重ね方がストレスへの耐性になります。エイジング、華麗に加齢してみませんか。こんなダジャレでもクリエイティブな楽しみです。